大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和62年(く)114号 決定

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、弁護人渡辺清の提出した抗告申立書に記載されたとおりであるから、これを引用する。

所論は、要するに、原裁判所は被告人に対する道路交通法違反被告事件につき、被告人の妻A子がした保釈の請求に対し、勾留を継続する必要があるとして刑訴法三四四条によりこれを却下したが、本件においては裁量保釈を許すべきであるから、原決定を取り消し、被告人の保釈を許可する旨の決定を求める、というのである。

そこで検討するに、関係記録によれば、本件は本件被告事件につき保釈中懲役五月の実刑判決を受け即日収監された被告人が控訴手続をとると共にその妻が原裁判所に保釈請求をしたが却下されたため、その後妻から被告人の弁護人として選任された本弁護人が抗告をなしたものであるところ、妻の保釈請求権は被告人の意思と拘わりなく行使できる独立代理権ではあるが、これによる裁判の実質的効果を受けるものは被告人であって妻ではないから、妻が刑訴法三五二条の決定を受けた者に当らず抗告権がないというべく、反面その実質的名宛人というべき被告人はこれに不服があれば抗告をなすことができるというべきであるし、また、本件被告事件につき先に適法に控訴がなされている以上、その後妻から選任された弁護人がその附随手続である身柄に関する措置につき抗告手続をとることに妨げはないと解されるから、本件抗告は適法である。

進んで論旨につき検討するに、前示のとおり本件は被告人が実刑判決の言渡を受けた後の保釈請求に関するものであるところ、関係記録によれば、本件被告事件は被告人が無免許で普通乗用自動車を運転したというものであるが、本件犯行の動機、態様のほか、被告人はこれまで無免許運転ないしこれを含む事犯により四回処罰され服役しており、無免許運転の常習的傾向が窺われ、なお本件犯行時には他人の運転免許証に自己の写真を貼付して所持するなどしていたもので犯情は甚だ芳しくないことなどの諸事情を勘案すると、被告人は本件犯行で現行犯逮捕されて以来これを認めて争わず、検察官請求証拠の全てに同意していること、被告人の職業、家庭の事情、資産及び生活状況、その他所論指摘の諸事情を斟酌しても、本件保釈請求を却下した原決定の措置に違法はなくその有する裁量権の範囲を逸脱したとまでは認められない。論旨は理由がない。

よって、本件抗告は理由がないから、刑訴法四二六条一項後段により、これを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 高木典雄 裁判官 太田浩 田中亮一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例